研究概要 |
哺乳類性決定の分子メカニズムを明らかにすることを目的として、マウス13.5日齢胎仔雌雄生殖巣間での遺伝子発現の差を指標に性分化に関与する新規遺伝子の検索を行った。その結果、これまでに32個の性分化関連候補遺伝子を単離した。これらの塩基配列の決定を行ったところ12クローンは新規遺伝子群であった。これらの中でも新規な転写因子、nephgonadinについてさらに解析を進め、その時間的、空間的な発現パターン等を詳細に調べた。nephgonadinの発現は、Whole-mount in situ hybridizationの結果、8.5日胚で最初に予定鰓弓領域から尿膜基部付近にかけて確認された。9,5日胚になると鰓弓、心臓の一部、泌尿生殖隆起予定域に発現がみられ、さらに発生が進み10.5日杯になると心外膜、鰓弓、泌尿生殖隆起、尿管芽等で発現がみられた。生殖巣においては、13.5日胎仔雄生殖巣で非常に強い発現が認められるのに対して雌生殖巣では発現が弱く、このような発現パターンは18.5日齢胎仔まで継続した。続いて生後の精巣、卵巣でのnephgonadinの発現をノーザンブロット法を用いて解析を行ったところ、精巣では出生後発現量が時間を経過するに従って減少し、5週齢精巣ではかろうじて発現を検出できるレベルになった。これとは対照的に、卵巣での発現は出生後1週から2週目にかけて胎児期と同様に弱い発現が続いたが、2週目から3週目にかけて発現量が増加し4週目にその発現のピークを迎えることが明らかとなった。すなわち、精巣と卵巣での発現量は、生後2週目から3週目にかけて逆転することが観察された。このようにnephgonadinは、性依存的な発現パターンを示し、雌雄性分化、生殖巣形成において機能分子として働いている可能性が大きい。
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