カイコの卵休眠は休眠ホルモン(DH)によって誘起される。今回の研究ではこれまでの研究成果に立脚し、活性発現に寄与するDHの部分構造の解析と体液中での分解に抵抗する活性分子作成を目指した。 今回新たに合成したPRLaは弱いながら活性を示し、別経路合成による以前の結果を確認できた。一方、合成途上の保護ペプチドよりアルギニン保護基のみを脱離させたFMOC-PRLaは無修飾のPRLaよし10倍強い、FGPRLaに匹敵する活性を示した。そこで、芳香族アシル基のアシル部分の鎖長の異なったPRLa誘導体と芳香環を持たない脂肪酸で修飾したPRLa誘導体を合わせて13種類合成し、現在、これら試料の生物活性試験を行い、芳香環の活性発現に対する寄与を解析中である。 一方、すでに確立している手法で調製したダブシル-DHやDNS-DHを用い、カイコ蛹の体液中で変化するか否かを調べた。その結果、これらの試料が、トリプシン分解とほぼ同じ経路で分解されることを見いだした。そこで、トリプシン的分解を受けにくい低分子休眠ホルモン断片類縁体を分子設計した。すなわち、D-アルギニンのC末端にシクロペンチルアミンを、N末端にイソブチルマロン酸アミドを、結合させた類縁体を合成した。なお、L-体についても同様に調製した。これらの分子はマロン酸部分の異性体混合物となるが、それぞれはHPLCで単離可能であった。得られた各試料を予備的にトリプルシン処理したところ、L-体に基づく異性体のうち一種のみが分解され、D-体由来の試料は分解を受けないことがわかった。これらの試料が体液処理で分解されるか否か、分解を受けるならばその経路はいかなるものか、および、これら試料の休眠誘導活性の有無を検討している。
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