ルリキンバエ成虫において、休眠中の脳によるアラタ体活性の抑制が、脳内のどの細胞によって担われているかを明らかにするため、パラアルデヒド-チオニン法で染色される脳間部神経分泌細胞を除去したところ、予想に反して休眠・非休眠のいずれを誘導する条件下でもすべて卵巣発達が抑制され、アラタ体が小さくなった。ルリキンバエの脳からアラタ体へ軸索を伸ばしている神経細胞を特定するために、側心体と脳を結ぶ神経あるいはアラタ体自身にニッケルイオンを注入してバックフィルを行い、脳の部分切断を併用することにより軸索の連絡経路を詳細に検討した。側心体・アラタ体を含む後脳神経複合体へは脳間部、脳側方部および食堂下神経節の細胞群が軸索を伸ばしていた。そのうち、脳間部の細胞群は側心体まで、脳側方部の細胞群はアラタ体まで軸索を伸ばしていた。以上の結果から、おそらく脳間部の細胞群はアラタ体の分泌活性を体液経由で促進しており、休眠中のアラタ体活性は脳側方部または食道下神経節の細胞によって神経経路で抑制されていると考えられた。今後、実際にアラタ体の幼若ホルモン分泌活性を測定するとともに、休眠中のアラタ体活性を抑制している細胞を特定したい。 ホソヘリカメムシにおいて、休眠・非休眠成虫およびそれらのアラタ体を除去したものやアラタ体神経を切断したもので、クチクラの力学的伸展性を引っ張り試験機で、体内の脂質含量をクロロホルム・メタノールで抽出して測定した。休眠成虫では非休眠成虫のものよりクチクラの伸展性が小さく脂質の蓄積量が大きかった。アラタ体除去やアラタ体神経の切除は、この性質に影響を与えず、クチクラの伸展性と脂質の蓄積はアラタ体の分泌活性とは無関係であることが明らかになった。
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