研究課題
1)退化域(蛹の翅から成虫翅への変化の過程で除去される部分)の退縮にたいして、食細胞がどのような寄与をしているかを検討するため、モンシロチョウを用いて食細胞の作用を阻害する実験を試みた。方法として、多量の異物を注入して食作用を飽和させる、あるいは鉄の微小粉末を取り込ませておいて、磁石によって退化域から隔離することを試みた。多量の異物(墨汁)を注入した場合の翅の発生自体が阻害されることと、鉄粉などの懸濁・注入がうまくいかず、確定的な結果は得られなかった。2)蛹の翅に対して実験的操作を加えやすくするために、モンシロチョウを使って培養を試みた。培養器、培養液(エクダイソンの添加量)など種々の組み合わせを試みたが、翅自体の分化が再現性よく培養環境下で実現されるにはいたらなかった。3)アカモンドクガは、雌雄で成虫の翅の大きさが著しく異なっている。蛹の翅までは雌雄とも同じように形成されるが、成虫ではメスは痕跡程度の翅しかもたない。この原因が細胞死の領域や程度の差にあるのではないかと考えて検討したが、蛹化後約2.5日でメスの翅だけが著しい収縮を起こすことがこれまでにわかった。収縮の様子を光学顕微鏡切片で観察したところ、雌の翅の退化域は、そのサイズがあまり変化しないままに翅全体の収縮が起こっていることがわかった。分化域の細胞が連続的に退化域に移動しながら細胞死を起こしている可能性が考えられ、細胞の標識などの詳細な実験が必要なことがわかった。エリサンの蛹の触覚は、凸凹のない原基から樹枝状の突起をもつ形への変化を示す。翅での形態形成と比較するために、その形態形成過程を観察した。触覚でも多様の細胞が細胞死によって除去されていることがわかったが、DNA断片化を示す細胞の分布は、将来除去される部分とは一致せず、むしろ樹枝状に残る部分に多かった。このことは触覚の形態形成が翅でのように静的な切り抜きによるのではなく、むしろ細胞のダイナミックな並べ替えによって起きることを示唆している。
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