研究概要 |
カイコPBANはフェロモン腺(PG)に直接作用して性フェロモン(ボンビコール)の生合成を促す。ボンビコールの生合成は、PGによるin vitroでのフェロモン合成系ではシクロスポリンAおよびFK506により阻害されたが、セルフリーでのフェロモン合成系では阻害されなかった。これに対し、アシルCoAシクロスポリンAおよびFK506はPBANのシグナル伝達におけるアシル基の還元以前の過程を阻害し、その特異性からシグナル伝達にはホスホプロテインホスファターゼとしてカルシニューリンが関与するものと考えられた。さらに、カルシニューリンが実際にPGに存在することがウエスタンブロットにより明らかとなった。一方、PBANの細胞内シグナル伝達機構を分子レベルから解明するため、伝達因子のアフィニティーによる精製を試みたところ,昆虫からは初めてシクロフィリンがPGの細胞質画分より単離された。シクロフィリンはシクロスポリンAの細胞内結合タンパク質であるとともに、細胞内にはシクロフィリンに結合する真のリガンド(Calcium-signaling modulating ligand,CAML)が存在することがヒトのリンパ球で示されている。PBANのシグナル伝達においてもカルシウムイオンの細胞内流入は不可欠であるため、シクロフィリンの発見はPBANの細胞内シグナル伝達機構解明において極めて重要な意味を持つと考えられる。
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