受精時に見られる精子の運動性の変化には高分子量プロテアーゼであるプロテアソームが関与する。本研究ではプロテアソームによる鞭毛運動制御の分子メカニズムを解明するために、主にサケ科魚類の精子を用いてプロテアソームの精子タンパク質リン酸化における調節に焦点を当てて研究を進めた。その結果、プロテアソームはcAMP依存性のプロテインキナーゼの活性化に関与し最終的にモータータンパク質であるダイニンの軽鎖のリン酸化にあずかることが明らかになった。一般に知られている調節サブユニットであるRサブユニットを光アフィニティラベルし分解を調べたが観察されなかった。このことからプロテアソームはこれまで知られていない新規の調節因子を分解することによりダイニン軽鎖のリン酸化を促進していると思われる。単離した26Sプロテアソームによるタンパク質の消失を指標にこの新規の調節因子を検索したところ、これまで分子量58Kのタンパク質がその有力候補であることを明らかにした。現在cDNAクローニングをすべく準備を進めている。また、ユウレイボヤ精子においても運動開始に伴い消失する76Kのタンパク質を同定した。一方、プロテアソームによってリン酸化調節を受けるダイニン軽鎖のcDNAクローニングを行ったところ、予備的ではあるがマウスにおいて受精障害や伝達率歪曲を引き起こす遺伝子複合体であるt-complexに位置するTctex2と極めて高い相同性を示すことがわかった。このことはこのダイニン軽鎖が鞭毛運動および受精に極めて重要であることを示唆していると同時に、プロテアソームがこのダイニン軽鎖の機能のスイッチングの役割を果たしている可能性をも示唆している。
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