細胞を生かしたまま、内在性プロテアーゼ活性を定量する。もしもこれが可能になれば、real timeで酵素活性変化が追跡できるし、細胞を破壊するために生じるア-ティファクトの心配もない。この要求が本研究の出発点となった。しかしながら、市販のプロテアーゼ基質は、細胞膜に対して透過性が高く、本研究の目的には添わなかった。そこで我々は、蛍光物質、7-aminocoumarin-4-methanesulfonic acid(ACMS)を開発した。ACMSは細胞膜不透過性であり、7位のアミノ基にペプチドを結合することによって、プロテアーゼ基質が合成できる。 Suc-Phe-Leu-Arg-ACMSを合成して、ヒトデ卵母細胞にマイクロインジェクションしたところ、卵の蛍光量が増加した。この蛍光量の増加は、プロテアーゼ阻害剤(特にプロテアソーム阻害剤)によって特異的に阻害されたことから、卵内のプロテアソーム活性に対応すると考えられた。そこで光電子倍増管を蛍光顕微鏡に接続し、生きた卵母細胞1個における蛍光強度の増加率、すなわち基質分解の初速度を定量した。すると大変興味深いことに、ホルモンによる減数分裂再開と同時に、蛍光基質の分解初速度が上昇し始めた。さらにこの上昇は、第一減数分裂の後期または終期まで続くことが明らかになった。したがってこの結果から、卵成熟過程において、プロテアソームの酵素的な性質が変化していることが予測される。そこでさらに速度論的な解析を行うために、生きた細胞内に於けるVmaxおよびKmの測定を試みた。ホルモンで処理する前の未成熟卵と処理後約80分の成熟卵に、各種濃度の基質をマイクロインジェクションし、それぞれの初速度を求めプロットしたところ、成熟卵と未成熟卵のVmaxは、2.3と0.84(μM/min)であることが算出された。一方Kmについては、60と30(μM)のであることが明らかになった。これらの結果は、確かにヒトデ卵成熟過程において、プロテアソームの酸素的性質が変化していることを示している。ホルモン処理後約80分には、M期促進因子(MPF)の構成要素であるサイクリンBが、プロテアソームによって分解される。この酵素活性の変化は、M期終了時のサイクリンB分解に関与する可能性も考えられる。また、受精時においても、プロテアソーム活性が一時的に上昇することを見いだした。
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