研究概要 |
新規に合成された分泌タンパク質のうち、遺伝的変異、サブユニットの会合異常、あるいは薬物誘導などが原因で、新生ペプチド鎖が不適切にフォールディングされるものは、分泌経路から除外され、小胞体内で速やかに分解されることが知られている。この現象は、小胞体における「新生タンパク質品質管理機構」と呼ばれ、近年特に注目されている。昨年までの本重点領域研究でこの小胞体内での異常タンパク質の選択的分解には、プロテアソーム様酵素が関与されていることを明らかにした。そこで、本年度は、(1)小胞体プロテアソーム様酵素の精製と性状解析を行うと共に、(2)遺伝的変異が原因で分泌異常となったアンチトロンビン変異体とヒスチジンリッチ糖タンパク質Tokushimaを哺乳類培養細胞中に発現し、その細胞内分解を解析した。 (1)小胞体プロテアソーム様酵素の精製と性状解析--ラット肝ミクロソーム画分から、分子量約60万で、SDS-PAGE上では、細胞質プロテアソームと同じサブユニットパターンを示すプロテアソーム様酵素(R2プロテアーゼと仮命名)の単離に成功した。本酵素と細胞質プロテアソームの諸性質を比較したところ、塩濃度感受性や至適pH、さらにカゼインを基質として用いた場合の分解パターンや二次元ゲル電気泳動によるサブユニットパターンの比較などに若干の差異が認められたので、今後さらに検討する。 (2)アンチトロンビンおよびヒスチジンリッチ糖タンパク質(HRG)変異体の細胞内分解の解析--アンチトロンビン欠乏症の原因となったGlu313欠失変異体(ΔGlu313)およびPro429が停止コドンとなった変異体(P→stop)をそれぞれBHK細胞に発現させ、各々の細胞内動態を解析した。その結果、両変異体ともほぼ正常に生合成されるものの、細胞外への分泌は野生型に比して5%以下であり、細胞内での分解が示唆された。さらに、各種プロテアーゼインヒビターによる分解阻止効果を調べた結果では、いずれの変異体も、LLL(carbobenzoxy-leucyl-leucyl-leucinal),LLnV(carbobenzoxy-leucyl-leucyl-norvalinal)およびlactacystinなどのプロテアソームインヒビターによって分解が強く阻止されたことから、プロテアソームによる分解が示唆された。また、HRG欠乏症の原因となったGly85Glu置換体(HRG-徳島と命名)をBHK細胞に発現し、細胞内分解を確認した。
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