プロテアソームは細胞周期の調節を担い、細胞内で不必要になった蛋白質を速やかに分解し、細胞の代謝を安定に保つ代表的な細胞内プロテアーゼである。最近この20S非活性型プロテアソームを活性化させる蛋白質集合体が発見され、プロテアソームの立体構造と共にその活性化因子の立体構造もまた機構解明の一端を担うものであると考えられている。この非リソソーム系プロテアーゼによる生物の精緻な細胞周期制御機構を解明するため、それらの役割を担う蛋白質群の立体構造解析を目的とした。 現在までに、20Sプロテアソームの単結晶を調製し、放射光による回折実験をおこなった。反射強度データの解析により、プロテアソーム分子の温度因子は43Å^2であることが分かった。このことはプロテアソーム分子が異型サブユニットからなる複雑な構造を持つにもかかわらず、分子内に結晶学的な高い対称性を持ち、かつ分子全体として異型サブユニットの配置および構造が原子レベルで高度に制御されていることを意味する。また、活性化因子も同じ牛肝臓から抽出し、(ab)3サブユニット複合体として純度の良い試料を得ることができた。各種条件で結晶化を行い、その中でも0.2M硫安、30%PEG8Kを沈殿剤とした条件で良好な結果を得ている。しかしながらX線回折実験に至るような良好な結晶はまだ得られていない。このような状況で1997年4月、R.Huber教授らは2Å分解能での酵母プロテアソームの立体構造解析に成功した。しかしながら酵母プロテアソームは、高等動物に特有の免疫応答性がない。牛肝臓プロテアソームはインターフェロンγに誘導されるサブユニットの置換が示されている。今後牛肝臓プロテアソームの構造生物学的研究は、酵母プロテアソームの立体構造を踏まえて、サブユニット置換の仕組みを明らかにしていくことが望まれる。
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