研究概要 |
遺伝子操作技術によりつくられたグルタミン酸受容体サブタイプ欠損ミュータントマウスの解析は、運動制御等の情報処理過程における各種の神経細胞やシナプスの役割を明らかにする上で、有用な手段を提供すると考えられる。これまでにイオノトロピックグルタミン酸受容体δ2サブュニット欠損ミュータントマウスが運動制御・運動学習障害を示すことを報告してきた。しかしながら、マウスはその小ささゆえに、運動制御について定量的な解析がなされていない。本研究では、マウスの眼球運動を計測できる実験系を確立することにより、ミュータントマウスを用いて運動制御・運動学習を定量的に詳細に解析できるようにし、運動制御・運動学習過程における小脳の各機能ユニットの役割を明らかにすることをめざした。DCサーボモーターを使用してコンピューターで制御できるマウス用の二重回転台を作製した。回転台内円にマウスを固定し、また赤外線LEDと赤外線感受性CCDカメラを取り付け、眼球の画像をコンピューターに取り込み、画像解析により眼球の位置を測定できるようにした。内円の回転によってはマウスが回転し、外円の回転によっては縦縞スクリーンが回転するようにした。これまでの解析により、グルタミン酸受容体δ2サブユニット欠損ミュータントマウスはいくつかの眼球運動異常を示すことが明らかになった。δ2欠損ミユ-タントマウスは0.1Hz,0.2Hzといった低周波数刺激時に、野性型と比較して明らかに大きいゲインを示した。また、内円の等速回転刺激を止めた時に見られるアフタ-ニスタグムスの持続時間が、野性型では明所で暗所より短くなるが、δ2欠損ミユ-タントマウスでは、明所と暗所で差が認められなかった。これらの結果は、δ2欠損ミユ-タントマウスで、前庭動眼反射の視覚による調整がうまく行われていないことを示唆している。
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