本年度はヒト視覚的性嗜好性に及ぼす嗅覚およびエネルギー代謝の影響を調べ、さらにその脳内過程の一端をサル視床下部外側野で検討した。1)ヒトの視覚的性嗜好性の嗅覚およびエネルギー代謝依存性:自己ペースレバ-押し課題を用いて、視覚的性嗜好性を大学生(男子106名、女子30名)で測定した。ニオイやブドウ糖を負荷しない状態で、男性では36%、女性では25%が女性の画像を長く見た。男性の写真を長く見たのは男女各1名であった。香水存在下では、男性では女性をよく見る人数が有意に増加し、女性では逆に減少した。20gブドウ糖溶液摂取により、男性、女性とも女性の写真を長く見る人の数が減少した。嗅覚やエネルギー代謝情報が視覚的な性嗜好性に影響を及ぼしていることが明らかになった。2)サル視床下部外側野ニューロンの生殖関連嗅覚応答性とグルコース感受性:視覚、嗅覚、エネルギー代謝系のの情報の少なくとも一部は視床下部外側野に収束している。視床下部外側野ブドウ糖感受性ニューロンは非感受性ニューロンと比較して摂食に関連したニオイのアミルアセテート(バナナ臭)とスカトール(糞臭)に対してより有意に高い反応性を示すが、視覚応答性は逆に低かった。アミルアセテートに対して興奮性応答が多く、スカトールに対して抑制性の反応が多い。生殖に関連したニオイであるジャコウとtrimethylamine(TMA、腐敗臭/月経排泄物臭)の反応性を調べると、両群で応答率に差がなかったが、ブドウ糖感受性ニューロンは抑制される場合が多く、逆に非感受性ニューロンは興奮性を示す場合が多かった。視床下部外側野においては視覚、嗅覚およびエネルギー代謝情報は同じニューロンで処理されるというよりも、ブドウ糖感受性ニューロンでニオイとエネルギー代謝の情報が処理され、非感受性ニューロンで視覚と嗅覚情報が処理されている可能性が高い。
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