遺伝的早期老化症候群(早老症)の代表的疾患であるウェルナ-症候群(WS)は、日本人に頻度が高く、種々の老化関連症状を若年期より発現する常染色体劣性遺伝病である。平均寿命は50歳前後であり、死因は併発する悪性腫瘍と動脈硬化性疾患である。多くの臨床的、細胞生物学的研究にもかかわらずWSの本態は捕らえきれなかったが、私たちのグループが1996年にWSの原因遺伝子(WRN)単離同定した。WRN蛋白はヘリケース蛋白の一つと考えられ、DNAの複製、組み換え、修復、転写、染色体の分離などに関与している可能性が示唆された。 WRN単離後、WS患者におけるWRNの遺伝子変異、15種類を同定した。その解析からは、15種類すべての変異間においてWSの症状・徴候には相違がなく、C末に存在するWRNの核移行シグナルの欠落に由来する機能喪失に起因すると巻えられた。また、50-60%の患者が共通のハプロタイプを共用することにより、創始者効果を認めた。WRN産物のコドン1367番目のArg-Cysのアミノ酸多型を用いたケースコントロールスタディを、インスリン非依存性糖尿病、晩期発症型アルツハイマー病、後縦靱帯骨化症、90歳以上の長寿老人などで行った。結果は、WRNの多型は一般の心筋梗塞との関連を示し、WSの病態解明がヒトの自然老化や各種生活習慣病の発症機構解明や予防、治療にまでつながる可能性を示唆した。さらに、WRN産物と相互作用をする蛋白質などを探索するため、two-hybrid systemをはじめとする各種技術はすでに確立させ、抗体などの必要資材も一部入手して研究を開始した。実際にWRN-Hと相互作用する可能性のある蛋白候補をすでに5種類検出し、さらにその蛋白を同定する作業に入った。
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