報告者はこれまでに、末梢における、ジーンターゲティングによってJ_H遺伝子座に挿入したV_HT15遺伝子を発現するB細胞の比率が、C57BL/6(B)マウスでは低く、BALB/c(C)で高く、単一遺伝子に支配されていることを明らかにした。本年度は、CBF1_xCマウス(半数はC型、残りはB型の形質を示す)の染色体DNAを試料として用い、SSLP(simple sequence length polymorphism)法によって、すべての染色体についての検討は終了していないものの、第7番染色体に存在する遺伝子にこの表現型との連鎖が認められている。この第7染色体の位置には、V(D)J組み換え機構に関わる遺伝子はマップされておらず、また、RAG遺伝子(第2染色体上)とこの表現型との間に連鎖は見いだされていない。また、並行して、monospecificマウス、すなわち、上記T15iマウスと、T15k鎖トランスジェニック(tg)マウスを掛け合わせ、このk鎖tgを持ち、かつT15i/+であるマウスにおいては、ほとんどすべてのB細胞がV_HT15陽性となる事を発見した。この選択の機構として、V_HT15鎖とこのk鎖のペアがポジティブに選択され、このk鎖と野生型IgHを発現するB細胞を凌駕してしまった可能性が考えられる。その場合、別の特異性を持つk鎖tg(ARL1ktgマウス)をT15i/+マウスに導入した場合にも、T15i/+、T15ktg(+)マウスと同様にV_HT15陽性B細胞へのskewingが見られた。このことから、V_HT15陽性B細胞の選択には、V_H、Vkペアリングの選択性は関わっていないようであり、むしろ、その機構としては、これらマウスではk鎖がtgとしてB細胞分化の早期から発現されており、従ってV_HT15が発現するやいなや、B細胞は表面IgMを発現し、pro/pre-B細胞の分化ステップをスキップしてしまうため、B細胞は野生型IgH発現に必要な3度のV(D)J組み換えを行う時間がなく、ほとんどすべてのB細胞が、V_HT15陽性B細胞となってしまうことが考えられる。すなわち、軽鎖の発現のタイミングは、一度だけ重鎖遺伝子の組み換えを試みて失敗した場合に、B細胞が死に至るのか、もしくは再度もう一つのアレルで組み換えを試みるのかを決定していると考えられる。
|