B細胞株WEHI-231はB細胞抗原受容体(BCR)を介するシグナルにより細胞周期の停止とアポトーシスおこるが、この際にKiplの発現が増強し、その増強はCD40シグナルにより阻害される。Kiplの上昇を伴う他の細胞系のアポトーシスの多くはc-Mycの発現により増強されるが、c-Mycの発現プラスミドを導入したWEHI-231細胞ではBCRを介するアポトーシスに耐性であることが報告された。しかし、我々はc-Mycを誘導的に発現する系を用いて、WEHI-231細胞がc-Mycの発現のみによりアポトーシスを起こすことを明かにした。したがって、c-Mycの発現プラスミドを導入するだけでアポトーシスが誘導され、その結果、アポトーシス耐性の変異細胞が得られたために、以前の報告ではc-Mycを発現する細胞ではBCRによるアポトーシスが誘導されなかったものと考えられる。さらに、我々は誘導的発現の系を用いて、c-Mycの過剰発現によりBCRを介するアポトーシスが著明に増強することを明らかにした。したがって、Kipl発現誘導を伴うアポトーシスではいずれもc-Mycの発現により増強することから、共通の機構の存在が示唆された。 また、正常マウスB細胞では、静止期B細胞のKiplの発現は高く、その発現はCD40を介するシグナルにより減少する。我々は、Kipl遺伝子破壊マウスを用いて、B細胞の増殖やアポトーシスにおけるKiplの役割を検索した。しかし、これまでの我々の細胞株を用いた結果とは異なり、BCRおよびCD40分子を介するシグナルによるアポトーシスや増殖の誘導とその制御は野生型と差を認めなかった。正常マウスB細胞では、Kip2やCiplなどのKiplと機能の重複する分子やその他の細胞周期制御機構がKiplと共同的に機能している可能性が示唆され、今後、その分子機構の解明が必要である。
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