胃粘膜細胞の産生するプロトンポンプに由来するペプチドの1種と反応して増殖し、ヌードマウスへの移入により自己免疫性胃炎を惹起できるCD4陽性T細胞クローンII-6が発現するT細胞受容体の構造をRT-PCR法ならびに5^1-RACE法を用いたcDNAの単離により決定した。α鎖はVα10-Jαc5a-Cαであり、β鎖はVβ14-Jβ2.3-Cβ2であった。決定された塩基配列をもとにII-6が発現するT細胞受容体可変部に特異的なPCRプライマーを設計、作製した。これを用いたRT-PCR法とその産物の塩基配列決定により、ヌードマウスに移入されたII-6細胞が胃粘膜に集積し、胃炎を惹起していることを確認した。 次に、このプライマーと定常部プライ-マ-によるRT-PCR法を新生児胸腺摘除によって自己免疫性胃炎を発症したマウスの胃粘膜由来RNAに適用し、これによって検出されたT細胞受容体cDNAをクローニングした後、得られたクローン多数の塩基配列を決定し、これがII-6と類似するものの頻度を測定した。その結果、新生児胸腺摘除によって自己免疫性胃炎を発症させると、II-6細胞のT細胞受容体に極めて類似した構造の受容体を発現するT細胞がその胃粘膜に集積したマウス個体が高頻度に、高い再現性をもって観察されることを見い出した。 以上の事実は、II-6細胞と類似するクロノタイプをもつ細胞が自己免疫性胃炎の発症に第一義的に関与し、必須ではないが中心的な役割を果たすのもであることを表している。従って、CD4陽性T細胞亜集団間における類似レパートリー細胞の出現頻度やこのクロノタイプを強制的に発現させたマウスの解析は自己免疫性胃炎の発症機構ならびに抑制性T細胞の成り立ちの解明へつながるものと期待される。
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