われわれは昨年米国Genetench社との共同研究により、パーキンソン病などの神経変形疾患の治療薬として期待されている神経栄養因子、glial-cell-line-derived neurotrophic factor(GDNF)が受容体型チロシンキナーゼRetのリガンドであることを明かにした。本年度、GDNFの関連因子であるneurturin(NTN)もやはりRetのチロシン燐酸化を誘導でき、そのリガンドであることを証明した。よって今回はGDNFあるいはNTNにより活性化されるRet蛋白を介した細胞内シグナル伝達系の解析を行った。その結果、Retの活性化によりアダプター蛋白の1つであるShcがRetのコドン1072の燐酸化チロシンに結合し、Shc自身もチロシン燐酸化を受けることを証明した。さらに燐酸化Shcは別のアダプター蛋白Grb2と結合し、Ras-MAP kinase系を活性化させることが判明した。GDNFとRET遺伝子のノックアウトマウスはいずれも腸管神経細胞の分化異常を生じる点から考えて、本年度明かにしたGDNFによる細胞内シグナル伝達系の活性化は腸管神経細胞の分化に重要な役割を果たしているものと推定される。神経細胞の分化のための細胞内シグナルと生存のためのシグナルは異なっていると推測されるので、今後は生存に関わる細胞内シグナル伝達系の解析を進めていくつもりである。 さらにわれわれはRet蛋白の細胞外ドメインにカドヘリン様構造が存在することに注目し、Retの活性化にCa^<2+>イオンが必要かどうかを検討した。その結果、GDNFあるいはNTNとRetの複合体形成にCa^<2+>イオンは必須であり、Ca^<2+>イオンが存在しないとRetの活性化が誘導されないことを明かにした。おそらくCa^<2+>イオンはRet蛋白がGDNFあるいはNTNを認識するための3次元構造を保持するのに関与しているものと推定される。
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