免疫抑制物質ISP-1は、冬虫夏草の一種、タイワンツクツクホウシに寄生するIsaria sinclairii薗の培養濾液より単離されたスフィンゴシン様構造を持つ物質である。これまでの研究により、ISP-1はマウス由来のIL-2依存性細胞障害性T細胞株CTLL-2細胞に対してアポトーシスを誘導することが明らかにされている。さらに、このアポトーシスの誘導は、スフィンゴ脂質生合成経路の最初の反応を触媒する酵素、セリンパルミトイルトランスフェラーゼの活性を抑制することによる細胞内のスフィンゴ脂質の減少によって引き起こされることが示されている。この細胞内のスフィンゴ脂質の減少による細胞死のメカニズムを明らかにするために、より単純な真核細胞である酵母を用いて、ISP-1の影響について検討を加えた。さらに、酵母の系を利用して、ISP-1による細胞死のシグナルに関与する遺伝子の単離を試みた。 酵母の遺伝子をマルチコピーベタタ-に組み込んだDNAライブラリーを用い、ISP-1存在下で、このDNAライブラリーを酵母にトランスフェクションすることにより、ISP-1耐性コロニーを得た。得られたコロニーから導入されたプラスミドを単離し、一次配列を決定することにより、4個の遺伝子を得ることが出来た。これらの遺伝子をSLI1-4(Sphingosine-Like Immunosuppressant resistant gene)と呼ぶことにした。このうちSLI-2遺伝子は分子量76kDの可溶性タンパク質をコードしていた。このタンパク質は、分子内にキナーゼドメインを有しており、そのキナーゼ活性がISP-1耐性に必須であることが明らかになった。
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