細胞は種々のシグナルに応答して、細胞骨格などをダイナミックに変化させ、細胞形態、細胞の極性形成などの高次機能を遂行している。一方、低分子量G蛋白質であるRasとRhoファミリーが高次機能を制御していることが明らかになりつつある。私共はRhoの標的蛋白質としてセリン・スレオニンキナーゼPKN、Rho-kinase、myosin phosphataseのmyosin-binding subunit(MBS)を同定した。私共は、Rho-kinaseがMBSをリン酸化してmyosin phosphataseの活性を抑制するとともに、myosin light chainそのものも直接リン酸化することを見出した。Rho-kinaseはこの二つのpathwayによりmyosin light chainのリン酸化レベルを上昇させ、その結果myosin ATPase活性を上昇させることを見出した。また、Rho-kinaseの新たな基質として細胞膜裏打ち骨格蛋白質のひとつであるERMファミリーを見出した。ERMは、MBSと直接結合して、複合体を形成することによりリン酸化されやすくなることも見出した。また、Cdc42とRac1の標的蛋白質IQGAP1が、細胞間接着部位に濃縮されcadherin・cateninと直接結合することを見出した。IQGAP1をoverexpressするとcadherin依存性の細胞間接着が抑制されることや、IQGAP1の作用が活性型Cdc42によりreverseされることも見出した。私共はRasの新規標的蛋白質としてAF-6を同定し、AF-6が上皮細胞ではtight junctionに濃縮されることを見出している。AF-6はtight junctionのコンポーネントのひとつであるZO-1と直接結合することも見出した。 本研究により明らかにされた細胞の細胞骨格や細胞接着の分子メカニズムは、細胞の高次機能を制御する機能探索分子を設計する上で極めて重要なものと位置づけられる。 以上本年度の研究計画はほぼ達成することができたと考えている。
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