研究概要 |
炎症や組織損傷に伴う慢性痛は熱などの侵害性刺激に対する感受性が亢進する痛覚過敏反応と触覚刺激などの非侵害性刺激により誘発される痛覚(アロディニア)に分類され、脊髄後角が痛覚伝達に関わる重要な部位である。脳内オピオイド受容体は薬理学的にμ,κ,δの3種類に分類され、痛覚・記憶・内分泌・自律神経性運動調節をはじめとする多彩かつ重要な中枢作用を示す。最近、上記の3つの古典的オピオイド受容体に加えて、第4のオピオイド様受容体が存在することが明らかとなった。我々は、 1)その内因性物質としてウシ脳より17個のアミノ酸から成るペプチドを単離・同定し、本ペプチドがラット、ブタ脳から精製されたノシセプチン(=オ-ファニンFQ)と同じアミノ酸配列を持つこと、 2)髄腔内投与したノシセプチンが痛覚過敏反応とアロディニアを誘発させること、 3)上位中枢だけでなく、脊髄後角の神経細胞に発現していること、 4)ノシセプチンによる痛覚反応が抑制性アミノ酸グリシンやプロスタグランンジンD2で抑制されることから、オピオイド系とプロスタグランジン系が密接に関連すること、 5)ノシセプチンの前駆体には、さらにノシセプチンの痛覚反応を抑制する別の17個のアミノ酸から成るペプチド・ノシスタチンがコードされていること、 6)その作用はC末端側の6個のアミノ酸が必須であることを明らかにした。 以上の結果は、新規オピオイドペプチド・ノシセプチンの作用機序を解明するだけでなく、ノシスタチンの単離・同定は、非ペプチド性鎮痛薬の創薬につながることが期待される。
|