本研究の目的は、色素体およびミトコンドリアのDNAおよびRNAポリメラーゼについてその多様性と役割分担を明らかにし、植物細胞進化過程におけるオルガネラゲノム間のクロストークについて考察することである。今年度の成果は、以下の通りである。 1.タバコ培養細胞BY-2から細胞核、原色素体核、ミトコンドリア核を高純度で単離し、in vitro転写反応を行わせる系を確立した。単離原色素体核のin vitro転写活性は、葉緑体RNAポリメラーゼの阻害剤であるtagetitoxinによって部分的にしか阻害されず、原色素体では葉緑体と性質の異なるRNAポリメラーゼが主カを占めている可能性が示唆された。 2.タバコ培養細胞BY-2とタバコ成熟葉における色素体遺伝子の発現様式を転写および転写産物蓄積のレベルで比較し、転写と転写産物蓄積との関係を検討した。単離葉緑体核のin vitro転写活性は単離原色素体核の約25倍(鋳型DNA1μgあたり)に達する。転写活性化の程度と転写産物量の増大との間には一定の直線的な関係が成り立ち、色素体転写産物蓄積量の決定において転写レベルでの制御が重要であることが示された。また、BY-2における色素体遺伝子発現の様相は、色素体ゲノムからrpoB(大腸菌型RNAポリメラーゼのβサブユニット遺伝子)を欠失させたタバコ(Alisonら、1996)における色素体遺伝子発現の様式に類似しており、BY-2の原色素体においては色素体コードの(大腸菌型)RNAポリメラーゼの役割が相対的に小さいと推測された。 3.BY-2から単離した原色素体核のin vitro転写活性はtagetitoxinに比較的耐性であるのに対し、タバコ葉肉細胞から単離した葉緑体核の転写活性は感受性が高いことを明らかにし、分化にともなう色素体転写装置の性質の変化を示した。 4、BY-2から単離した原色素体核およびミトコンドリア核に存在するDNAポリメラーゼの性質(鋳型選択性等)についてゲル内DNAポリメラーゼアッセイ法および単離核のin vitroDNA合成系を用いて検討し、その類似性を示した。
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