研究概要 |
我々は、ショウジョウバエ・ポリコ-ム遺伝子群のひとつであるPosterior sex combs(Psc)の哺乳類ホモログmel-18を,癌抑制遺伝子のひとつとして単離した.Mel-18タンパクは,配列特異的なDNA結合タンパクであり、その結合は近傍のエンハンサー活性を抑制する.その機能は,mel-18欠失マウスを用いた解析から, (1)ショウジョウバエPscタンパク同様にホメオボックス遺伝子群の発現制御を介して,中軸構造の前後軸形成に必要であり, (2)リンパ球前駆細胞のIL-7に依存した増殖にも必須であることが示された。 この表現型はプロト癌遺伝子として単離されたもうひとつのPscホモログbmi-1欠失マウスでも観察されたことから,mel-18とbmi-1とはお互いに相補的な機能を有していると考えられ、mel-18/bmi-1二重欠失マウスを作成した.その結果,二重欠失マウスでは, (a)mel-18またはbmi-1欠失マウスは周産期を生き延びるのに対し,二重欠失マウスは胎生期致死であり胎生9.5日までしか生存しえないこと. (b)ホメオボックス遺伝子の部位特異的な発現ドメインは完全に失われ,ユビキタツに発現されていたこと, (c)神経管や脊索を構成する細胞の形態が野生型とは著しく異なり,特に,細胞相互の接着やその増殖が阻害されていることが示された. これらの実験事実は,mel-18とbmi-1とは,ショウジョウバエ・ポリコ-ム遺伝子群同様に,遺伝的相互作用をおこし,協調的にホメオボックス遺伝子群の発現コントロールに寄与していることを意味している.そして,Mel-18とBmi-1遺伝子産物は,前後軸形成と細胞接着や増殖のコントロールというふたつの局面で作用することが示唆された.
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