“脊索"は、個体発生学的にみて神経誘導を引き起こす器官として、また系統発生学的にみて脊索動物門に含まれる動物群(脊椎動物+頭索動物+尾索動物)を特徴づける最も顕著な形質として、発生学上非常に重要である。 (1)As-Tの5'上流領域(転写調節領域)の解析 As-T遺伝子の転写開始点から上流領域にlacZレポーター遺伝子に結合したコンストラクトを作製し、マボヤ受精卵へ顕微注入を行った。5'上流領域1.7kbから約50-200bpづつ削ったコンストラクトを作製し、脊索特異的エンハンサーを含む領域を限定した。その結果、上流領域-289bではLacZ活性が尾芽胚の脊索細胞のみで発現するが、上流領域-270bでは脊索細胞での発現も異所的な発現も全く見られないことが明らかになった。つまり、-289bから-270bの19bpの配列に脊索特異的エンハンサー領域が含まれる可能性が高いことが示された。 (2)As-Tの5'上流領域に結合するトランス因子の解析 As-T遺伝子の発現調節に関わると考えられる領域の塩基配列を詳しくみると、上流領域-171bpから-152bpの間にBrachyuryが結合する塩基配列とほぼ同一のパリンドロームを含む配列が存在しており、ここにT-boxを含むタンパク質が結合する可能性が示唆された。また、AS-T遺伝子が発現する原腸胚期の核抽出液を用いてgel shift assayを行い、顕微注入実験で示された脊索での発現に必須な領域を含む、30bpの配列に特異的に結合する因子が存在することが明らかになった。 (3)脊索特異的遺伝子の探索と同定(脊索を含む尾部に発現する遺伝子の単離) マボヤ尾芽胚の頭部(脊索を含まない)と尾部(脊索を含む)のcDNAライブラリーを作製し、そこからサブトラクション法を用いて脊索を含む尾部のみに発現する遺伝子を単離した。その遺伝子の中から、脊索に発現する遺伝子をin situハイブリダイゼーション法により選別し、脊索および神経索に発現するHrSH2遺伝子の解析を行った。その結果、HrSH2遺伝子は新規の分子で、N末端側には典型的なSH2ドメインを含むことが明らかになった。
|