マウスでは、多くの実験用近交系統が確立されており、その遺伝的背景の相違により、しばしば特定の突然変異の表現型に変化をもたらすことがある。ある突然変異に対して、特定の系統の遺伝的背景が表現型の抑制などの明らかな表現型の変化を示す場合、突然変異と相互作用を持つ遺伝子の解析が可能となる。また、突然変異と相互作用するこのような遺伝子は、修飾遺伝子と呼ばれている。 Rim4突然変異は、肢芽前後軸が異常となり肢芽中胚葉の前端にShh遺伝子が異所的に発現する。そのヘテロの表現型である軸前側多指症の発現率は、NZB系統とのF1ではほぼ100%であるが、日本産野生マウス由来のMSM系統との交配では0%となり、MSM系統の中にはRim4の表現型を抑制する修飾遺伝子が存在するものと考えられる。今年度は、この表現型の遺伝的背景による変化に注目し、MSMゲノムに局在するRim4修飾遺伝子のマッピングを試みた。MSMとNZB系統を含む交配実験の結果、第2染色体上に必要な修飾遺伝子をマップすることができた。この位置には、Rim4と同様に軸前側の多指症を呈するlstが存在する。さらに、最近になってPaired-typeのhomeodomainを持つ転写因子であるAlx4がlstに連鎖していることがわかった。また、Alx4のノックアウトマウスの表現型は、Rim4やlstと良く似た軸前側の多指症を示し肢芽中胚葉の前端領域にShh遺伝子の異所的発現が認められた。以上の事実からRim4修飾遺伝子がAlx4そのものである可能性が考えられる。現在、Rim4突然変異に対してその表現型を変更させるNZB系統やMSM系統においてAlx4遺伝子に多型が存在するかを検討している。
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