セリン:ピルビン酸アミノ転移酵素(SPT)はラット肝において、ミトコンドリア、ペルオキシソーム両オルガネラへ局在するという特徴を持っている。ミトコンドリアSPTはミトコンドリア移行シグナルをN末に持った前駆体型で生合成され、ミトコンドリアマトリックスへ輸送された後、プロセシングにより成熟型へと変換される。一方、ペルオキシソームSPTは成熟型サイズで合成され、プロセシングを伴わない形でペルオキシソームへと取り込まれる。 ミトコンドリア酵素のミトコンドリアへの取り込みにはいくつかのシャペロンが関与し、変性状態で膜を通過することが知られている。ところが、ペルオキシソームマトリックス酵素のペルオキシソームへの取り込み過程については、変性状態を経ないで進行するという2、3の報告がなされている。しかし、我々は、ペルオキシソームへのin vitro取り込み実験において、本来、プロテイナーゼKに対してかなり抵抗性を示すペルオキシソーム型セリン:ピルビン酸アミノ転移酵素(SPTp)がペルオキシソーム膜と接触することにより、プロテアーゼ感受性になることを見出した。さらに、この過程は温度にあまり依存しない、速い過程であることが示された。これらの結果はペルオキシソーム膜透過の直前にSPT分子がプロテアーゼ感受性に構造変化する、すなわち酵素が変性状態に変化することを想像させる。SPTpはペルオキシソームへ取り込まれた後に、再度高次構造を形成し、活性を持った機能分子が作られると考えられる。本研究により、ペルオキシソーム膜面上には、取り込まれるべき蛋白質の高次構造を変性させるシャペロン様の活性が存在し、膜透過をスムースに行わせている可能性が示唆された。
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