大腸菌において、これまでストレス応答はその特異的な転写因子であるsigma32の細胞内濃度によりコントロールされていると考えられてきた。しかし、今回、我々は1)sigma32ポリペプチド上の82から95番目のアミノ酸領域の欠失変異の解析よりストレス時の合成誘導はほぼ正常に起こること、2)同欠失変異を持つsigma32はストレス時に安定化されないこと、3)過剰量のシャペロン分子の供給によりsigma因子が安定化される事を見いだした。この安定化された状態でのストレス応答を調べたところ、その量に依存したストレス蛋白質の合成誘導は見られなかった。この事は、シャペロンによるsigma因子の活性調節機構の存在が強く示唆されるものである。また、欠失領域はRNAポリメラーゼコア分子との相互作用に重要な領域である可能性が示唆されている。以上の知見をまとめると、ストレス時において分子シャペロンの枯渇状態になるとそれまで、シャペロン分子によりRNAポリメラーゼとの相互作用を阻害されていたsigma因子はRNAポリメラーゼコア酵素と相互作用することでストレス応答を引き起こし、さらにその結果として分解酵素による分解が免れることで安定化している可能性が強く示唆された。今後の課題は、1)分子シャペロンによるRNAポリメラーゼコア酵素とsigma32との相互作用の阻害、及び2)シャペロン分子依存的に起こると考えられるFtsHタンパク分解酵素による分解における分子シャペロンの機能の解明である。
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