小胞体にはアスパラギン結合糖鎖の変化を介してポリペプチド鎖の構造形成を促進する機構の存在が示唆されてきた。これはモノグルコースを持つ糖鎖の形成と密接な関連がある。この糖鎖は小胞体の中でUDP-glucoseを基質として再形成されレクチン様シャペロンcalnexin/calreticulinと結合する。このUDP-glucoseは小胞体に取り込まれるので、この分子機構の解明をトランスフェリンをモデル分子として35S-メチオニンで標識したHepG2細胞より調製したミクロソームで行った。その結果、calnexin/calreticulinの糖鎖を介した基質との結合自体は構造形成に抑制的に働くものの基質構造は安定化され、さらにグルコシダーゼIIによりグルコースが除かれ基質が解離した時点では他のシャペロンが効率よく基質に作用することが可能となり、このサイクルの繰り返しにより最終的に構造形成の効率が上昇する事を示した。一方、極めて短時間しかcalnexin/calreticulinと相互作用しない場合にもモノグルコースを介した相互作用が構造形成に必要とされる分子があり、この場合には糖を介した結合がlocal foldingの順列決定に関与するという可能性を示唆した。また、精巣に発現するレクチン様シャペロン、カルメジンの遺伝子を破壊したマウスを作成すると、精巣・精子の形態や精子の運動能は全く正常なのに、卵子透明帯への結合能力が著しく低下し、オスではほぼ不妊になることを見いだし、このシャペロンが特に卵子認識を行う分子の構造形成に関係する可能性を示唆した。
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