研究課題
本研究の目的は、RAS/MAPKシグナル伝達経路の抑制因子がどのようにしてパターン形成に寄与するか、を明らかにすることである。EDLは新しいクラスのETS蛋白であり、RAS/MAPKシグナル伝達経路の下流の転写因子であるPOINTEDP2蛋白と結合することにより経路の出力を抑制する。発生過程に於けるedl遺伝子の役割を解明するために、edl遺伝子の約15kb上流にP-因子トランスポゾンが挿入した系統を利用して、edl遺伝子が完全に欠失した系統を樹立した。edl遺伝子欠失系統は劣性致死であり、胚伸展受容器の数が減少している。伸展受容器は、RAS/MAPKシグナル伝達経路の活性化によって誘導されることが知られているが、edl突然変異の症状は、伸展受容器誘導能の獲得にRAS/MAPKシグナル伝達経路を抑制することが必要であることを示唆している。sprouty突然変異は、複眼光受容ニューロンの過剰生成、胚の気管の過剰分岐など、RAS/MAPKシグナル伝達経路の過剰活性化に類似する症状を呈する。エンハーサートラップ法によりsprouty遺伝子のクローニングを行った。Sprouty蛋白はシステインに富む領域を持つ新しい分泌蛋白であり、ヒトのSproutyホモログもこの領域で高い相同性を示すことがわかった。従来のRAS/MAPKシグナル伝達系によるパターン形成モデルでは、細胞種の多様性生成における空間的情報は、シグナルの入力、すなわちリガンドが、局在した分布を呈していることに由来すると考えられている。EDLとSproutyはこれまでに知られているRAS/MAPKシグナル伝達系の抑制因子とは異なり、シグナル伝達系が働く細胞のうちの特定の細胞でのみで発現している。このことは、リガンドに加えて、EDLやSproutyもパターン形成に指令的機能を果たしていることを示唆している。
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