本研究の目的は、肝炎デルタウィルス(HDV)RNAのリボザイム活性(RNA鎖切断)に着目し、その溶液中の構造および触媒作用に必要な金属イオンの結合様式を解明することにある。本年度の主な成果は次に示す如くである。 1.小型化したHDVリボザイム系の大量合成 3本のRNA鎖(基質成分8-mer、酵素成分16-merおよび35-mer)からなるHDVリボザイム系を設計した。基質成分については、化学合成により合成した。切断されない基質類似体として切断部位のシチジン残基の2^'-水酸基をメチル化した誘導体も合成した。酵素成分は、適当な鋳型DNAを用いT7RNAポリメラーゼによる転写反応を利用して調製した。 2.マグネシウムイオン濃度の効果の分析 リボザイムの構造および活性に及ぼすMg^<2+>イオン濃度の影響を、CDスペクトルの変化およびRNA鎖切断速度定数の変化を追跡することにより調べ、得られたデータをカーブフィッティング法により分析した。その結果、このリボザイムには、Mg^<2+>イオンは3個以上結合することが可能であり、RNA鎖切断活性を持つには2個以上のMg^<2+>イオンが必要であることが明らかになった。 3.NMRによる解析 NMRスペクトルの測定により、3本のRNAが実際に複合体を形成すること、およびMg^<2+>添加により複合体が構造変化を起こすことを明らかにした。2D NOESYスペクトルを測定することにより、シグナルの一部を帰属した。
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