1)インフルエンザウイルスの遺伝子発現調節は、翻訳段階でウイルスNS1蛋白が後期蛋白をコードするmRNAの翻訳開始部位上流に存在する翻訳調節シグナル(TRS)を認識して促進することにより行われる。 2)ウイルス感染細胞を蛋白質リン酸化酵素阻害剤H8で処理するとNS1のリン酸化が阻害され、さらに後期蛋白の翻訳促進が特異的に阻害された。 3)ヘルパーウイルスを必要としない新しいインフルエンザウイルスの遺伝子操作技術(RNase H法)を開発し、これを用いてNS1蛋白に変異を持つウイルスdl12とN110を作成した。dl12は、N端付近の12残基を欠失するが、温度感受性となり39℃で感染後期にすべてのウイルス蛋白の翻訳が特異的に阻害された。N110はC端側52%を欠失するが、すべての温度で後期蛋白の翻訳だけが特異的に阻害され、ウイルス産生は親株の5-10%に抑制された。 4)これら親株と変異株のNS1を、培養細胞内でプラスミドベクターから発現する系を作成し解析を行った。また、GSTタッグを付けたこれらの蛋白を大腸菌で大量に発現し、アフィニティーカラムで精製し解析を行った。 5)NS1のC端側52%に主たるリン酸化部位が存在する事が明らかとなった。 6)NS1のリン酸化には、細胞内でG-キナーゼの関与が示唆されたが、in vitroのリン酸化反応では、精製A-キナーゼ、C-キナーゼ、G-キナーゼのいずれによっても同程度に強くリン酸化された。in vitroでは、リン酸化によるNS1の翻訳調節とRNP結合活性の調節は確認されなかった。 7)WSNのNS1には結合するが変異N110のNS1には結合しない宿主蛋白を確認したので、さらに機能との関りから解析を進めている。
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