研究概要 |
今年度も生体分子モーターの多様性に関する研究が多く行われた.特に,植物ミオシンと軸糸ダイニンに関して新たな成果があがった.まず,タバコ培養細胞から,運動活性のあるミオシンを二種類単離,テッポウユリ花粉管からカルシウムによって運動活性が阻害されるミオシンを単離することに成功した.これらはいずれも植物では全く新しい成果である.さらに,遺伝子工学の手法を使って,細胞性粘菌のミオシンのモータードメインを高速運動で知られる車軸藻ミオシンのものと置き換えたキメラミオシンを作成した.このキメラミオシンのATPアーゼ活性は筋肉ミオシン並に高くなったが,滑り運動速度は期待どおりには大きくならなかった.この理由の解明は今後の課題である(山本).ダイニンの研究では細胞質ダイニンの1分子の運動を光ピンセットを用いて計測した.その結果,ATP濃度によって運動の速度ばかりでなく微小管との相互作用の持続性が変化するという興味深い結果が得られた(豊島).さらに,鞭毛内腕ダイニンに存在するアクチンの存在状態が検討され,アクチンとセントリン,p28という軽鎖が直接結合していることが明らかになった,ダイニン内のアクチンと結合する蛋白質が明らかになったのは,これがはじめてである.また,内腕ダイニンを欠失した新しい変異株を単離した(神谷).さらに,いわゆるモーター蛋白質以外の運動性を測定する実験として,グルカン合成酵素(GTF)とデキストランの相互作用を研究した,この酵素は蔗糖を基質としてグルコースポリマーであるデキストラン鎖上に多数の分岐を形成する活性を持つものである,今年度は,はじめてその相互作用を一分子レベルで蛍光観測することに成功し,その結果,蔗糖によって,GTFとデキストランの結合時間が減少することが明らかになった.これらの結果から,GTFとモーター蛋白質との性質の類似性が浮き彫りにされた.
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