ミオシン(従来型のミオシンII)は代表的な生物分子モーターであり、その構造と機能の理解にはモーター機能部位を組換体発現蛋白質として得る事がカギとなっている。その理由は、i)分子生物学上の変異をかけた上で蛋白質化学的な解析が可能となるうえ、ii)結晶化を試みるだけの蛋白質が得られるからである。ところが、この部位を機能を維持したかたちで発現させるのは難しく、下等有核生物・ディクチオステリウム及び脊椎動物・平滑筋で成功しているにすぎない。これらのミオシンはリン酸化による制御を受けるタイプに属する。私どもの関心のある、Ca^<2+>結合により制御をうけるタイプのミオシンについては未だ成功していない。本研究ではCa^<2+>結合性を有する下等有核生物・フィザルムと軟体動物・ホタテ貝よりのミオシンを合わせて扱う。そして、Ca^<2+>が前者にはactivatorとして後者にはinhibitorとして働くことを利用して、Ca^<2+>による制御の詳細の検討を行うものである。具体的にはフィザルム・ミオシン重鎖の「モーター・ドメイン」を軽鎖を結合する「制御・ドメイン」を含んだかたちで組換体発現蛋白質として得ようとするもので、同じ下等有核生物のディクチオテリウム発現系を利用するものである。 本年度にはクローニングが未だなされていなかったフィザルム・ミオシン重鎖につき、「制御ドメイン」のみならず「モータードメイン」のcDNAをクローニングすることができた。これでフィザルム・ミオシン「制御ドメイン」を構成するすべての蛋白質のcDNAが揃ったことになる。さらに、制御ドメイン、必須軽鎖及び制御軽鎖を大腸菌内で発現蛋白質化することを試み、これに成功した。全ての蛋白質は可溶性であり、これを精製し、Ca結合性を測定した。確かに、Ca結合が認められ、今後の見通しが得られた。 本来の目的はモータードメインの発現であるが、大腸菌の発現系では無理と考えられ、ディクチオステリウムの系を用いる発現ベクターに組込みの作業中である。
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