研究概要 |
筋収縮におけるエネルギー発生調節機構を分子レベルで解明するために、ウサギ骨格筋の腸腰筋の筋原線維中のミオシン頭部に蛍光ATP(Cy3-EDA-ATP)を結合させておき、caged-ATPの光分解により遊離されるATPで筋原線維を活性化し、ミオシン頭部に結合した蛍光ATPをATPに置換し、筋原線維の蛍光強度の減少の時間経過からATP加水分解速度を、筋原線維のメカニカルな性質と同時に測定する実験系を開発した。そして、ADP遊離の速度はcross-bridgeのstrainに依存(正または負の弾性ひずみに依存)して変化するという結果を得た。この研究論文はBiophys.J.73,2033-2042(1997)に掲載された。本研究で開発した実験手法は、1.筋肉の機能的最小単位である筋原線維を使うことで、まるごとの筋肉よりアクチン、ミオシン系に近く、しかもin vitro motility assay系とは違い、力学過程のoutputが測定可能。2.実時間測定の為、将来、力学的性質との同時測定が可能。などの利点があげられる。この"エネルギー発生を荷重に応じて自動的に調節する機能"はモーター蛋白自体のもつ性質であり、加えて、それは、ATPとの反応サイクル中の律速段階の反応ステップ自体が力学的負荷によって変わるという分子的仕組を筋肉自体が使っている為であることを示唆している。そして、今後、我々は、アクトミオシンモーター分子自体にstrainに依存してADP遊離速度を変える分子的仕組が備わっているかどうかの研究を筋原線維のレベルからアクチンフィラメントとミオシンのレベルまで下げて行うことを計画している。
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