本研究では、「全ての中枢神経細胞死は、神経細胞の種類・死の起因によらずcaspasesを阻害することより阻止・軽減することができる」という仮説を検証することを目的とした。 1.培養海馬神経細胞にアミロイドにより誘導される細胞死 ラットないしハムスター海馬由来培養神経細胞にアミロイド添加により誘導される細胞死はcaspasesを広く阻害するzD-dcbにより効果的に抑制された。またこの時poly-(ADP-ribose)polymerase(PARP)の116kDaから85kDaへの限定分解が見られたこと、及びcaspase3の32kDaから17kDaへの限定分解すなわち活性化が見られたことからcaspase3の関与が示唆された。 2.小脳顆粒細胞を高K培地から低K培地に移した場合に誘導される細胞死 ラット小脳顆粒細胞を高K培地から低K培地に移した場合細胞死が誘導されるが、この細胞死はzD-dcbにより効果的に抑制された。 3.小脳顆粒細胞に栄養因子除去により誘導される細胞死 ラット小脳顆粒細胞の培地からbFGFを除去した時に誘導される細胞死も、zD-dcbにより効果的に抑制された。 4.小脳顆粒細胞にスタウロスポリン処理により誘導される細胞死 ラット小脳顆粒細胞にスタウロスポリン処理により誘導される細胞死もzD-dcbにより効果的に抑制された。 5.スナネズミ海馬神経細胞に虚血により誘導される遅発性神経細胞死 スナネズミ海馬に両側総頸動脈一時結紮により誘導される遅発性神経細胞死もzD-dcbにより効果的に抑制された。またこの虚血により起こる記憶障害もzD-dcb投与により著明に改善された。 以上我々が調べた全ての中枢神経細胞死の系で、caspasesを阻害することにより細胞死が抑制されることが明らかになった。またその多くにおいてcaspase3ないしその類縁酵素が関与していることが示唆された。
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