ヒト劣性遺伝病のアタキシア・テランジェクタシア(A-T)は、細胞レベルでは放射線高感受性と細胞周期チェックポイント欠損、臨床レベルでは小脳失調、免疫不全と高発がん性を特徴とし、神経症状はプルキンエ細胞の選択死が原因と推測され、神経細胞死の遺伝病モデルとなる。本研究ではA-Tの原因遺伝子ATMの遺伝子変異解析し、その特性を明らかにすることを目的とした。用いた試料は日本人A-T患者から樹立した線維芽細胞系で、8家系に属する患者10人とその両親6人の試料を解析した。66個のエクソンと3056ベースのオープンリーディングフレームをもつ大型ATM遺伝子上の変異を迅速に検出するため、制限酵素フィンガープリント法を用いた。細胞から調製したRNAを出発材料とし、逆転写PCR法で得たcDNAを制限酵素で数百ベース未満に消化後末端ラベル断片をアクリルアミドゲル上で解析した。cDNA断片解析後、直接シーケンスにより変異を同定した。全16アレルのうち12アレルにおいて総計6種類の変異を同定した。4例はエクソン欠失(エクソン7、16、33、35)、ほか2例はエクソン33上の1塩基欠失(4649delA)とエクソン55上の5塩基欠失(7883del5)であった。一例を除く5例は日本人特有の変異であった。エクソン33欠失と7883del5変異は高頻度で、全アレルの44%を占めハプロタイプ解析によって創始者効果型の変異であることがわかった。本研究により日本人A-T患者における変異特性を明らかにし、創始者型変異の同定は患者の遺伝子診断とヘテロ保因者同定のための基礎知見となると期待される。また本解析でも変異頻度の高かった遺伝子の5′側領域の機能解析のためこの領域のcDNAに交雑する配列を探索し、7番、9番及び10番染色体上に存在を確認し、その構造解析が進行中である。経費は細胞培養、遺伝子解析のための培養用消耗品と薬品、酵素を主とする遺伝子解析のための消耗品に用いた。
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