本年度の研究は以下の3点について行った。 (1)神経生存・再生因子の探索 我々の研究室で既に確立された、ディファレンシャルディスプレイ法により新たな神経再生因子の探索を継続した。その結果得られた候補遺伝子のうち、膜7回貫通型受容体構造を有する新規遺伝子についてcDNA全長をクローニングするとともに、機能解析のために培養細胞での発現実験を行っている。さらにポリクローナル抗体の作成にも成功し、各臓器ごとの発現をウエスタンブロットにて検索した。その結果本蛋白は脳と精巣に豊富な蛋白であり、グリコシレーションがあることが明らかになった。現在脳内での局在を免疫組織化学法にて検討している。 (2)神経損傷舌下神経核cDNAライブラリーの作成 ラット約1000匹の片側舌下神経を切断し、一定期間後に神経核を取りだし損傷神経特異的なcDNAライブラリーの作成を行った。現在ライブラリーが完成し、それからランダムにいくつかのクローンをクローニングし、in situハイブリダイゼイションにより損傷神経で実際に発現が促進している遺伝子が得られるかどうかを検討した。その結果、本ライブラリを用いてランダムにクローニングするだけで、約25%のクローンが神経損傷後に発現が亢進していることが明らかになった。現在本方法によって得られたクローンのうちいくつかの既知の遺伝子について神経生存・再生における機能に関して解析中である。 (3)遺伝子導入系の開発 アデノウイルスを用いた遺伝子導入系が完成した。成熟動物の神経系には容易に導入できるが幼若動物の損傷神経系には導入が比較的難しいことが明らかになった。この点の改善が当面の研究課題である。
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