研究概要 |
ニューロトロフィン(NT)は神経細胞の生存維持に関る。そのメカニズムの解明が本課題の目的である。P75が致死因子であり、NGFによる抑制が無くなると神経細胞をapoptosisに導くという新たな仮説が提出された。しかしNTのapoptosis抑制は、ras-MAPK系、IP3Kの関与が確認されており、総合的な解析が要求される。(1)PC12D、L細胞に、p75 NGFRを遺伝子導入し、サブクローンを作成する作業を進めたが、P75の致死性に起因するのか、成功していない。現在、P75を発現制御出来る細胞株の作成を進めている。(2)NGFによる神経細胞生存作用は、TrkAから、ras-MAPKカスケードを介して働くとする説がある。PC12D細胞に非活性型ras遺伝子を導入し、rasの活性化を抑制出来る細胞株を作成した。しかし、血清除去下で認められるNGFによるapoptosis抑制効果に影響しなかった。(3)Trk受容体の活性化は、チロシンキナーゼの活性化によって始まる。NTによる神経細胞の突起伸展、生存維持作用に対する、チロシンキナーゼ阻害薬の効果を調べる実験中、予想外の結果が得られた。新規抗生物質ラディシコール(東大、吉田稔氏より提出)は、ごく低濃度(20nM)で幼鶏、知覚、交感神経の培養系に於て、NGF,BDNF,NT-3による神経突起の再生、細胞の生存維持作用を強力に増強させた。また単独でもそれらの作用が認められた。この様な作用を示す薬剤は、報告例が無く、現在この現象のデータの集積、メカニズムを調べる方向の研究に歩を進めている。
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