心血管系の発生過程は極めて複雑で、血管の発生様式にはvasculogenesisとangiogenesisの2通りがあることが知られているが、何が発生様式を決定しどのような機序で成人の循環系が出来上がるのかについては未だ不明の点が多い。我々はレポータ遺伝子のrandom insertionによるenhancer trap法を利用し、胎児血管内皮細胞で発現する新しい遺伝子“del-1"を単離した。このdel-1のcDNAは480アミノ酸残基からなり、5'末端にはシグナルペプタイドを認め、N末端の3つの上皮細胞増殖因子(EGF)繰り返し配列とC末端の2つのdiscoidin様ドメインから構成される新しい蛋白であった。さらに2番目のEGF配列の中にインテグリン結合配列(RGD)が認められた。In situ hybridizationでは心内膜、血管内皮細胞に強いdel-1 mRNAの発現が見られ、抗del-1抗体による免疫組織染色では、血管では内皮細胞下に、心臓では心内膜下層にdel-1が検出された。即ちdel-1は胎生期に内皮細胞で産生されたのち分泌されて細胞外基質に存在することが明らかになった。血島由来の未分化内皮細胞のcell lineであるyolk sac cell(YS cell)を用いてin vitroでの機能解析を行った。YS cellは通常4-5日でネットワーク・管腔形成を起こすのに対し、del-1蛋白をコートしたdish上でYS cellを培養するとこれが全く起こらなかった。従ってdel-1は内皮から分泌された後に細胞外基質に存在して、RGD配列を介して内皮細胞膜上のintegrin αVβ3と結合して細胞内に情報を伝達し、angiogenesisを抑制する蛋白質と考えられる。
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