研究概要 |
本研究は,トガリネズミ科ジネズミ亜科に属するジャコウネズミ(Suncus murinus)を対象に,その行動特性を明らかにするとともに,個体の維持管理の標準化を試みるものである. 平成10年度には,名古屋大学文学部心理学教室(心理学実験動物舎)において維持している3系統(Onj,Snj,Oza)を被験体として,以下の課題について成果を得た. (1) 行動特性の解析:前年度に設置した装置(VitalViewデータ収録装置)を用いて体温・移動の両者の日周リズムの同時計測を行い,特異な体温低下と移動の停止の現象を見出した.この現象の生起メカニズムの解析のために,明暗周期の操作を導入し,それに対する応答を検討中である. (2) ドメスティケーションにともなう行動変性の追跡:1993年に沖縄本島で捕獲した野生個体を起源としてドメスティケーションを進めている系統(Oza)は順調に世代数を重ね,現時点で17〜18代に達している.それらのドメスティケーション世代におけるキャラヴァン行動を観測し,データを蓄積した. (3) 行動特性検定法の開発:学習実験に不可欠な動因操作の影響を確認するために,給水・給餌制限にともなう活性水準の変化についてデータを収集し,ラット・マウスとの比較によって,スンクスの種特異性を明らかにした. (4) 維持管理のシステム化:飼育環境下において,生育状況,交尾・分娩率,育仔率(幼仔殺傷)など繁殖の成否にかかわるデータを収集し,現行の維持管理方式の評価を試みた. (5) 野生ジャコウネズミ生息調査:沖縄県与那国島において,トラッピング法による生息状況を調査した.畜産の振興や農地改良などの影響で生息数が減少している.知名度も低い.
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