研究課題
基盤研究(A)
本計画は、超並列計算機CP-PACSの強力な計算能力を使った格子QCDのシミュレーションにより、素粒子標準理論の非摂動的性質の研究を飛躍的に進展させることを目的とする。以下の研究を行った:(1)クォークの対生成対消滅の効果を無視したクエンチ近似で、これまでの計算を遥かに凌駕する規模の計算を標準格子作用を使って実行し、軽いハドロンの質量スペクトルに、クエンチ近似に由来する10%程度の実験値からのずれが存在することを明確に示した。これはクエンチ近似の限界を意味する。(2)フレーバー数2の動的クォークを含むQCD(フルQCD)の系統的シミュレーションを、改良された格子作用を用いて実行し、カイラル極限と連続極限で以下の結果を得た。クェンチ近似におけるハドロン質量スペクトルの実験値からのずれが、フルQCDでは大幅に小さくなる。QCDの基本パラメータであるクォーク質量を計算し、フルQCDでは従来のクエンチ近似より20-40%小さいことを示した。重いbクォークを含む中間子の崩壊係数を計算し、フルQCDの値がクエンチ近似より約10%大きいことを示した。フレーバー1重のη'中間子の質量を初めてて系統的に計算し、連続極限で実験地に近い値を得た。これは、U(1)問題がQCDで解決できることを示唆する。(3)上記(2)と同じ改良された格子作用を用いて、QCDの有限温度相転移と状態方程式の研究を行った。最初にグルオンだけの系の場合について系統的研究を行い、連続極限で、標準理論で得られた結果を再現した。さらにフレーバー数2のフルQCDに計算を拡張し、N_1=4格子の場合について、相構造と状態方程式を決定した。(4)格子フェルミオンによるカイラル対称性の破れの問題を解決する可能性が期待されている、ドメイン・ウォールQCDのテストを、クエンチ近似で行った。それにより、格子が十分細かければカイラル対称性が回復するが、格子が粗ければ回復しないことが分かった。また、ゲージ作用の改良により、カイラル対称性が改善されることも示した。この成果を得て、CPの破れの研究に必要な物理的行列要素の計算がドメイン・ウォールQCDを使い進行中である。
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