研究概要 |
本研究では、東工大において1)実験データ解析と2)測定器開発とを行った。研究のテーマは陽子と中性子のスピンのクォーク・グルーオン構造の研究である。核子のスピンは1/2であるが、そのうちクォークが担う部分が少ないことは1988年のEMCの結果により知られている。我々は、ドイツ・ハンブルクのDESY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)のHERMES実験に参加しており、その高エネルギー偏極電子ビームと偏極核子標的の散乱から得られる実験データは逐次東工大に送られる。この散乱は深非弾性散乱と呼ばれる。この実験の特徴は、散乱する電子を測定するだけでなく、発生するハドロン(中間子、核子、Λ粒子など)も同時計測することである。そのために、リングイメージングチェレンコフ検出器(RICH)を開発し、HERMES実験に組み込んだ。それにより、パイ中間子、K中間子、陽子、反陽子が2-20GeV/cの領域で完全に識別できるようになった。核子の中の偏極したu,d,sクォークの分布が解明できるようになった。 更に、「横偏極」についての研究がなされたことは大きな成果である。これは、核子スピンと直角方向にスピンが向いているクォークの分布を研究するものである。実験では、電子散乱の散乱平面とパイ中間子の発生方向とのなす角が、標的の核子のスピンを反転したときにどう変わるかに着目して観測した。そして有意なAsymmetryがあることを検出した。横偏極のクォークの物理は今後の研究分野を開くものである。
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