研究概要 |
今年度は磁場中X線構造解析装置の設計,製作を行った.本年度予算により,磁場誘起スピン密度波相を低温X線構造解析により研究するのに必要な準備はほぼできあがった. これと平行して,研究物質に関連した特徴的な物性で,未解決な問題に関連したものを研究した.特に,準一次元有機伝導体(DMET-TSeF)_2AuCl_2の強磁場ホール効果の測定を行った.DMET-TSeF系はTMTSF系の類縁物質であり,これまでの我々の研究により,(DMET-TSeF)_2AuCl_2は極低温まで一次元的なフェルミ面を持ち金属的で,ゼロ磁場中では低温X線構造解析により,TMTSF系などでよく見られるような超格子構造は存在しないことが確認されている系である.これまでホール効果の測定は15Tまで行われており,9T付近から系の磁場誘起スピン密度波相にともなう,弱いホール電場があらわれることは知られていたが,同じように磁場誘起スピン密度波相をもつTMTSF系の顕著なホール効果とは異なるものであり,より強磁場での測定が必要であった.DMET-TSeF系の,アニオンがAuI_2である塩ではこれに反し,0.6Kで超伝導があらわれ,ホール効果は符号の反転を含むものが観測され報告されている.今年度の実験で27Tまでの測定を行い,磁気抵抗の19T付近での顕著な増大と,19T付近でホール効果が急激に0に近づき,その後ほぼ一定のままとなることを新たに見いだした.また,この結果を(TMTSF)_2PF_6で得られているこれまでの結果と比較すれば,19T以上の状態をn=0の磁場誘起スピン密度波状態とみなすのがひとつの解釈であるが,ホール電場の大きさが標準理論で予想される大きさとは異なっており,新たな解釈が必要であることを示した.
|