研究概要 |
今年度は最終年度であるが,磁場中X線構造解析装置のうち磁場に関する部分を実験条件にあわせて組立て試験を行った.装置は極低温,強磁場中でX線測定を行うという意欲的なものなので、様々な実験上の問題点が出てきたが,当初目標とした測定磁場7Tを発生することが可能となった.実際に設置した場合,もれ磁場の影響が大きいことがわかり,またクライオスタットの総重量が当初予定していたより重くなり,角度回転に問題が生じるなど,いくつか改良の必要な問題が発生した.これらは,ほぼ解決され,試験的な測定が可能な状態となった.現在のところ,当初目的としたFISDW状態におけるCDWとSDWの共存の問題については,まだ決定的な実験結果を得るにいたっていないが,継続した測定により結論を出せると思われる. 今年度は,研究面では関連分野でいくつかの論文を出版した.本研究に関連したX線の測定技術についての成果も出版している(日本結晶学会誌). 研究面で特記すべきことは,TMTSFの類似系として重要な我々のグループで開発したDMET-TSeF系で,国際的な協力により強磁場の物性研究に新しい進展があったことがあげられる.共同研究グループは米国のフロリダ大学グループである.(DMET-TSeF)2AuC12系では,FISDWは磁場中で低い電場領域でもスライディング運動していると考えるべきであるというのが我々のこれまで得た結果であるが,このことはフロリダ大学グループの実験でも確認された.(DMET-TSeF)2AuI2系でも同様のことが言える.DMET-TSeF系のFISDWが動きやすいということの理由はこれからの新しい問題である.さらに,最近我々は(DMET-TSeF)2AuI2の強磁場ホール効果の測定に成功した.(DMET-TSeF)2AuC12の場合とは異なり,(TMTSF)2PF6で観測されている量子ホール効果と非常に類似した振る舞いを示し,ホール電場の符号も反転する.ホール電圧そのものの大きさは小さく,スライディングの効果を考慮する必要があると思われるが,これまでのFISDWで報告されている効果とは異なる現れ方をしていることが明らかになった.この成果は2000年に開催される国際学会(ICSM2000,オーストリア)で発表される.
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