研究概要 |
本年度においては,昨年に引き続いて,マントル遷移層から下部マントルに及ぶ条件におけるMgSiO3-H2O系,Mg2SiO4-H2O系,CMASpyrolite-H2O系などにおける含水鉱物の安定領域を解明した.これらの研究によって,上部マントルから深部に運ばれた水はマントル遷移層では含水ウオズレアイト(β相)や含水リングウダイト(γ相)中に貯えられる.マントル遷移層においては通常のマントル温度(約1200〜1600℃)においては約0.5wt.%程度の水がこれらの鉱物中に貯えられる.一方下部マントルにおいては,スラブに相当する低温部においてのみスーパーハイドラスB相,含水G相が存在する,2%以下の少量の水が存在する場合には,低温のスラブ内部においてのみ約1000〜1300kmの深さまではスーパーハイドラスB相と含水G相が存在する.以上の結果から,沈み込むプレート内部に1000〜1300kmにも脱水反応帯があることが明らかになった.下部マントル上部においてこの脱水反応で生じた流体のほとんどは上部の遷移層に貯えられる可能性がある.下部マントルにおける水の存在様式に関する実験も進展した.これまで20GPaを超える高圧で安定な含水鉱物としてすでにのべたスーパーハイドラスB相,含水G相,アルミナを含有するEgg相などとともに,δ相AlOOHが20GPaを超える高圧条件で安定であることが見い出された.この相は様々な比率でSiとMg固溶し,Si,Mg,Alが八面体を取り,陵または負を共有する八面体の酸素に水素イオンが結び付いている特徴的な構造を持っている.δ相AlOOHはアルミナやシリカに富んだプレートの上部の物質中に見い出される可能性がある.この含水δAlOOHは特徴的な構造を有している.その構造はSiO2の高圧多形であるスチショバイトおよびCaCl2型構造相と酷似している.
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