研究概要 |
ケイ素ーケイ素σ結合系の性質について,以下の知見を得た.1)ハロゲンによるケイ素-ケイ素結合切断反応は,炭素-炭素σ結合系には見られない特徴的な反応である.しかし,その立体化学に関する実験情報は今日までなかった.本研究では,同位置ケイ素上に置換基が異なるシクロトリシラン(1,2,3-トリフェニル-1,2,3-トリテキシルシクロトリシラン)の各立体異性体(cis,cisおよびcis,trans体)の純品を合成し,各異性体について,臭素による環開裂反応の立体化学を調べた.その結果,この反応は立体選択的に進行し,ケイ素まわりの立体配置は反転/反転で進行することが明らかになった.さらに,この反応が架橋型ブロモニウムイオンを中間体するイオン機構で進行することを提案した. 2)縮合多四員環ポリシランである,はしご状(ラダー)ポリシランのうち、アンチ構造を有する二環式から五環式までのラダーポリシランのは、ケイ素骨格がねじれた二重らせん型構造を有し,通常は右らせん型と左らせん型分子の1:1混合物(ラセミ混合物)として結晶化する.本研究では,三環式分子に関して,キラル結晶化の最適条件を見いだし,右らせもしくは左らせん型の分子のみで形成されている単結晶を,それぞれ得た.この現象は不斉結晶化と呼ばれるが、本研究は有機ケイ素化合物で最初の不斉結晶化の実験例である. 3)ケイ素-ケイ素結合有する新規分子として,ベンゾ[1,2:4,5]ビス(1,1,2,2-テトライソプロジシラシクロブテン)を創製し,X線結晶構造解析で,このもの構造上の特徴(例えば,ケイ素-ケイ素結合は歪みがかかっているが伸長しない.しかし,ベンゼン骨格は歪んでいる)および燐光発光特性(量子収率Φp=0.72,77K)を明らかにした.
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