本研究では以下の知見を得た。1.アンチ型ラダーポリシランの最長波長吸収極大は二環系から五環系へと環数が増加すると長波長側にシフトする。この傾向は、二次元ケイ素骨格における効果的なシグマ共役に起因する最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の降下によって説明される。このため、ナトリウムやカリウムによるラダーポリシランの一電子還元は容易に進行する。この場合、多四員環骨格は還元条件下で保持される。アニオンラジカルは著しく安定であり、無酸素条件では、五環系の半減期は半年以上に達する。X線結晶構造解析によって、ラダーポリシランのケイ素-ケイ素骨格は二重らせん様構造をとっていることがわかった。らせん様構造のために、結晶中には右ねじれ(P)と左ねじれ(M)の鏡像異性体が存在するが、このことに起因して三環系及び四環系では不斉結晶化が起こった。二環系ラダーポリシランではケイ素-ケイ素中結合に酸素や硫黄原子を挿入すると、環の電子状態が変化し、紫外光吸収とけい光発光が強くなることがわかった。三環系から五環系の過酸酸化においては、一方のケイ素鎖に酸素原子がドミノ式に挿入した。このドミノ酸化は他のポリシランには見られない特異な現象である。2.シクロトリシランの幾何異性体のハロゲンによる環開裂反応を調べ、ケイ素-ケイ素結合とハロゲンとの反応の立体化学(ケイ素まわり立体配置は保持/反転)を初めて明らかにした。3.オクタテキシルオクタゲルマキュバンを合成し、対応するオクタシラキュバンと化学的・物理的性質を比較することが可能となった。このものは、ケイ素類縁体とは異なり、光に対して極めて安定である。単環状ポリゲルマンは容易に光分解されるので、ゲルマニウム多面体シグマ共役系が特異な光化学的性質を有することを示唆する。
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