研究概要 |
三重項カルベンは高スピン分子の構成単位として有用であることが示されているにもかかわらず、まだ安定に単離されていない。我々はこれまでの研究によって、立体保護による速度論的安定化が三重項カルベンの安定化に対して有効であることをみいだし、室温溶液中で数分の寿命を持つものの発生に成功している。そこで本研究ではこの手法をさらに展開し、室温溶液中で時間単位の寿命、望ましくは完全に安定な三重項カルベンを創製することを第一の目的とする。そしてこのようにして合成した安定カルベンを構成単位として持つ高スピン分子を創製し、その特性化を行うことを第二の目的とした。 (1) 三重項カルベンは反応性が高く、通常の保護基とは反応してしまうので、特異な保護基の開発が必要である。前年度に引き続いて、この保護基の開発を行った。そしてジ(トリプチシル)カルベンや2,2',6-トリス(トリフルオロメチル)ジフェニルカルベンの発生に成功した。しかし、寿命は前年度に発生した20分には及ばなかった。2,2',6,6'-テトラキス(トリフルオロメチル)ジフェニルカルベンが最も安定と予想されるので、このものの合成に全力を注いでいる。 (2) 前年度に引き続いて、安定カルベンの前駆体ジアゾ化合物も安定であることを利用して、ポリジアゾ化合物の合成と、そこから発生するポリカルベンのスピン多重度の特性化を行った。現在のところジアゾ単位を6個まで連結することに成功しており、そこから発生するヘキサ(カルベン)が基底13重項であることを明らかにした。この手法を展開すればさらに高次ポリジアゾ化合物の合成にまで応用できることを示唆した。
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