新しい構造と機能をもつ有機分子を、σ骨格とπ電子系との相互作用を機軸とするコンセプトに基づいて設計・合成し、それらの物性を明らかにすることを目的として研究を行ない、本年度は以下のような実績を得た。 1.ビシクロ骨格の縮環した縮合芳香環炭化水素とカチオン種への変換。 BCO二重体をジエンとするDiels-Alder反応を鍵反応として用い、BCOユニットの縮環したアントラセンおよびビフェニレンなどを新たに合成し、一電子酸化によってこれらをカチオンラジカル種へと変換した。これらをイオン結晶として単離し、X線回析による構造決定に成功した。さらに強い一電子酸化剤を用いて、対応するジカチオンを発生させ、NMR法によりこれを観測した。 2.ビシクロ炭素骨格の縮環したシロールおよびシレピンの合成と物性検討。 ビシクロ〔2.2.2〕オクテン(以下BCOと略記)の二量体および三量体の末端二臭化物を出発体としてこれをジリチオ化し、種々の有機ケイ素のジハロゲン化物と反応させて、BCOの縮環したシロールおよびシレピンの合成を行なった。シロール類についてはUVスペクトル、シレピンについては温度可変NMR法を用いて、これらの分子の電子的性質と動的挙動について明らかにした。 3.ビシクロ骨格の縮環したシクロペンタジエン誘導体の合成と物性検討。 2個のBCOユニットをもつアルコール誘導体の酸触媒による環化反応を利用して、強固なσ骨格をもつシクロペンタジエン誘導体を合成し、これを安定なアニオン種へと導いた。その構造と電子的性質について、NMRスペクトル法を用いて明らかにした。
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