昆虫は免疫グロブリンに依存した異物認識機構を持たない。この昆虫が侵入してきたカビやバクテリアなどの異物をどのような仕組みで非自己として認識しているかは、まだよく解明されていない。昆虫では血球細胞による貧食、被のう形成、脂肪体による抗菌ペプチドの合成など、カビやバクテリアに対する有効な生体防御機構が発達している。この生体防衛機構が働き始めるには、まずカビやバクテリアが非自己であると血球や脂肪体細胞に教える仕組みが存在しなければならない。その仕組みにはカビやバクテリアの細胞壁成分と特異的に結合する分子が含まれていることが必要条件である。そのような分子はまだ昆虫の細胞膜上では同定されていない。我々は昆虫血液中に存在するフェノール酸化酵素前駆体を活性化するカスケードがカビやバクテリアの細胞壁成分と特異的に結合する分子を含んでいることを1980年代の半ばに報告し、それらをペプチドグリカン認識タンパク、β-1、3-グルカン認識タンパクと命名した。本年度はこれらペプチドグリカン認識タンパクとβ-1、3-グルカン認識タンパクのcDNAクローニングを行った。ペプチドグリカン認識タンパクに相同なタンパクが哺乳類にも存在することが明らかになった。この相同なタンパクは哺乳類でその機能が不明のまま放置されていたものであるが、我々の研究からペプチドグリカンを非自己として認識するのに重要な役割を担っていいるのではないかと俄に注目され始めた。Β-1、3-グルカン認識タンパクのβ-1、3-グルカンへの結合ドメインを同定した。結合ドメインはグルカナーゼと相同なドメインではないことがはっきりした。
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