自然免疫の仕組みが働き出すためには、体内へ侵入した異物が非自己として認識されなければなりない。自然免疫における異物認識の仕組みはパターン認識と呼ばれ、獲得免疫における異物認識の仕組み(クローナル認識)と大きく異なっている。我々はカイコ血液のフェノール酸化酵素前駆体活性化系(proPOカスケード)の研究から二種類のパターン認識タンパクを発見し、それらをペプチドグリカン認識タンパク(PGRP)とべーター1、3一グルカン認識タンパク(βGRP)と命名した。昆虫の主要な自然免疫反応(生体防御反応)として1)貧食、被嚢形成;2)proPOカスケードと血液凝固;3)杭カビ、抗菌ペプチドの合成誘導が知られている。proPOカスケードはPGRPとβGRPがペプチドグリカン(PG)とベーター1、3ーグルカン(βG)にそれぞれ結合することにより活性化されることが明らかにされている。しかし、杭カビ、抗菌ペプチドの合成誘導に際して働いているパターン認識タンパクは同定されていない。二部の杭カビ、抗菌ペプチドの合成誘導に際してTollと呼ばれている受容体を介してのシグナル伝達系が関与していることがショウジョウバエで示されている。Tollのリガンドはprospatzleから限定加水分解により生じるspatzleである事が証明されている。カビやバクテリアが侵入してきた時に杭カビ、抗菌ペプチドの合成誘導がおこるのであるから、カビやバクテリアにによりプロテアーゼが活性化され、其のプロテアーゼの作用でprospatzleが活性化されると考えられる。spatzleに対する抗体とリコンビナントprospatzle、proPOカスケードの構成要素の一つである精製したプロテアーゼ(BAEEase)を用いて、BAEEaseがprospatzleに作用してspatzleが生成される事を証明した。此の事実はproPOカスケードが杭カビ、抗菌ペプチドの合成誘導において異物認識機構として働いていることを示している。
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