第2種超伝導体の混合状態では、渦糸の規則的な配置によりその表面上では磁束密度の空間的な変調が生じている。従って、その表面に希薄磁性半導体(DMS)を接合すると、DMS特有の巨大ゼーマン分裂によりその実効的なバンドギャップが変化し、磁束量子によるドット状の閉じ込め(「磁場変調スピン量子ドット」)が生じると期待される。本研究ではこのような系を現実の試料で実現すべく、第2種超伝導体NbSe_2(T_c=7.2K)を基板として、その面上にDMSであるCd_<1-x>Mn_xTeの薄膜を分子線エピタキシー(MBE)により成長させた。 NbSe_2は層状物質で$c$軸方向にはファンデルワールス力で結合しているため、その面上に閃亜鉛鉱型のCdTeあるいはCd_<1-x>Mn_xTeを成長させると、疑似的にファンデルワールスエピタキシーとなり、約33%の格子不整合にもかかわらず、良質な結晶成長の可能性が期待される。実際にMBEにより成長させると、RHEED像がNbSe_2(0001)面の再構成パターンからCdTe(111)面の再構成パターンに連続的に変化し、成長膜厚が数原子層の初期過程から平坦な2次元成長が行われていることが明らかにされた。また成長した試料をX線回折により評価したところ、面内での結晶方位の関係はNbSe_2[1010]||CdTe[112]となっているが、本来3回対称であるCdTe(111)面のピークが60°毎に現れていることから、CdTe結晶は面内で互いに180゜回転した双晶として成長していることがわかった。 このようにしてNbSe_2上に成長させたCd_<1-x>Mn_xTe薄膜およびCd_<1-x>Mn_xTe/Cd_<1-y>Mg_yTe単一量子井戸(SQW)のフォトルミネッセンス測定を行ったところ、半値幅の狭い励起子発光ピークを示し、光物性的にも高品質の薄膜が成長できたことを示している。磁束量子による磁場変調効果を探索するため、低温・弱磁場中でPL測定を行ったところ、NbSe_2が混合状態となる温度・磁場域で、発光スペクトルの半値幅の磁場依存性において、磁場増加と共に一旦増加した後減少に転じるという通常では見られない振舞いが観測された。この異常な振舞いは、定性的には磁束量子による磁場変調の効果として理解することができ、磁束量子による閉じ込め効果を、PLスペクトル幅の磁場依存性という形で初めて実験的に検証することができた。
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